お金について、すぐ確認すること―運用、保険、借り入れの確認―

元気なうちに「確認すべきこと」や「しておきたいこと」をご紹介します。

 家族でお金のことを話すのには抵抗がある、というお話をよく聞きます。しかし、認知症が進んだり突然大きな病気をしたりすると、「どの銀行にお金があるのか」「どんな保険に入っているのか」などが分からず、途方に暮れてしまうケースが多くあります。

 元気なうちに「確認すべきこと」や「しておきたいこと」を把握しておけば、介護が必要になった時にも慌てず準備することができます。

目次

親の通帳整理とあわせて、何を確認すればいいですか?
まずは、運用や投資を行っているか確認しましょう。

 普通預金や定期預金の確認とあわせて、証券会社や銀行の証券口座についても確認しましょう。口座の有無だけでなく、「どんな資産」を「どの程度」持っているのかも確認できると安心です。これは、現金以外の資産を大まかに把握するだけでなく、親が「いつの間にか不適切・過大な投資をしていないか」をチェックすることにつながります。株式や投資信託などの売買について、元気なときには投資判断ができた人でも、認知機能の衰えや長期間放置してしまっていたりすることで問題が生じていることもあります。

事例のご紹介

ここからは、投資に関する実際の例をご紹介します。

  • Aさんの父親は若い頃から株式への投資を行っていました。年齢が70才を超えたことで昔のようには取引をしていなかったようですが、証券会社からの頻繁な電話や取引報告書が届いていたため、母親は心配していたようです。
  • そこでAさんは「自分も株式の勉強をしてみたい」「投資を始めてみたいので教えてほしい」と父親に伝えてみました。父親は喜んで様々な話をしてくれましたが、一方で父親自身が理解できない複雑な商品を保有していることも分かりました。
  • Aさんは、その場で否定することはせず、「ちょっと調べてみるね」「いい商品だったら私も買ってみようかな」などと話を受け入れました。その後、ネットなどで商品を調べたうえで、「ちょっと複雑すぎて理解が難しいので私は買わないことにした」「お父さんも一旦は売却して、分かりやすい商品にしてみたら?」と提案しました。
  • 父親はすんなりと商品を売却し、その後は意外なことにAさんに運用や投資について相談してくれるようになったそうです。後ほど明かされたことですが、含み損が出ている株式も多く、Aさんの父親は内心では不安を感じていたようです。
    ⇒この事例では、頭ごなしに否定することはせず、時間をかけて話をすることでスムーズに話が進みました。また、Aさんが父親の豊富な投資経験を教えてもらうことで、父親の尊厳も保つことができました

 人生100年時代と言われる現在では、つみたてNISAや確定拠出年金で資産形成を行うなど、現役世代(=子ども世代)にも投資について考える必要性が高まっています。親世代が投資を行っているかどうかに関わらず、自身のためにも金融に関する知識を増やし、親の運用が適切かどうか一緒に確認すると良いでしょう。

 特に高齢になってきた親が、間違った投資判断で損失を生じた場合には、金銭的損失だけでなく精神的なショックを受けることにもなりかねません。親子の相性があるので、正解は一つだけではありませんが、上手なアプローチ方法を考えていきましょう。

親が加入している保険について、全く分からないのですが…
生命保険についても、親子で情報を共有しておくと安心です

 死亡したときに保険金が支払われる生命保険、入院したときや手術を受けたときに保険金が受け取れる医療保険、がん保険など様々な保険がありますが、いずれも保険金を受け取るためには保険会社に請求を行う必要があります。本人が保険に入っていることを忘れていたり、身近な人が保険の存在を知らなかったりすれば、保険金の請求が漏れてしまう可能性があります。

事例のご紹介

ここからは、保険に関する実際の例をご紹介します。

  • Bさんは、知人から聞いた話をきっかけに両親に保険について確認することにしました。
  • 知人の母親が亡くなり、遺品を整理していたところ、鏡台の引出しの奥にあった書類の束から母親の保険証券がいくつか出てきたそうです。保障の内容を確認してみると、死亡時に200万円を受け取れるほか、入院時には日額1万円、手術の際には10万円が受け取れるものでした。母親は入院・手術をしていたので、死亡保障の100万円と入院給付金・手術給付金40万円を受け取ることができました。
  • 知人は「母からは保険のことなど一切聞いていなかったし、体調を崩して入院している母に対して保険に入っているかを聞く気にはならない」「保険証券を見つけなければ、保険金をもらい損ねるところだった」と言っていたようです。
  • Bさんは、知人の話を出しながら両親と保険の話をしてみました。話のポイントは次のようなものでした。
    「入院をすることになっても高額療養費があるため、経済的な心配はないと思っている」
    「しかし、もしも医療保険に加入していて入院給付金などが受け取れれば、個室を利用したり、通院にタクシーを利用する際にも役に立つ
    「知人の母親が亡くなった後で、知らなかった保険証券が出てきたことがあった」
  • 両親は、いくつかの保険証券を持ってきて、保障内容や受取人などについて教えてくれました。また、あわせて保険料が引き落とされている通帳を見せてくれたとのことです。
    ⇒この事例では、保険契約があることで「何かあった場合に安心できる」ことを親子で話し合うことができました。また、通帳を見せてもらうことで保険以外の話もできそうです

 再三になりますが、保険について情報を共有するメリットは少なくありません。

 メリット1.請求漏れを防ぎやすくなる

 メリット2.親が加入した保険を、親自身のために活用できる

 メリット3. 必要性の低い保険に入っていたり、保障が重複していないかをチェックできる

 1つ目は、前述のとおり「請求漏れを防ぎやすくなる」ということです。2つ目は、「親が加入した保険を、親自身のために活用できる」ということです。死亡保障に「リビングニーズ特約」を付加することで、余命6カ月と判断された際に死亡保険金を受け取ることが可能で、保険金を加入者自身のために活かすことができます。3つ目は、「必要性の低い保険に入っていたり、保障が重複していないかをチェックできる」ことです。これはいくつかポイントがありますので詳しく説明します。

 高齢の方と話をすると「お葬式代くらいは自分で用意したい」と考えている方が多いのですが、預金や現金などの貯蓄があれば、わざわざ保険で用意する必要はありません(=必要性低い)。複数の保険に加入して入院保障をたくさん確保している高齢者もいますが、「高額療養費」により医療費の自己負担には上限がありますので、保険が過剰になっている可能性もあります(=保障が重複)

 また、生命保険料には相続税の非課税枠があり、法定相続人1人あたり500万円までは相続税がかかりません。仮に夫が死亡し、妻と子どもが2人いる場合、1,500万円までは非課税です。これを活用するために、養老保険や終身保険などに加入すること自体は悪いことではありませんが、そこに必要性の低い医療特約を付けている場合は無駄な保険料を払っていることになってしまいます(=必要性低い、保障が重複)。不要な特約がある、保障額が大きすぎるといった場合は、保険会社に問い合わせを行い、保障内容を見直してみましょう。

 ポイントは「たくさんもらえるのが良い保険ではなく、必要な保険に無駄なく入るのが一番おトクで賢い」ということです!

追 記

 なお、生命保険協会では、平時の死亡・認知判断能力の低下、または災害時の死亡もしくは行方不明によって生命保険契約に関する手掛かりを失い、保険金等の請求を行うことが困難な場合等において、生命保険契約の有無のご照会を受け付けていますので、ご参考ください。

 最近ではキャッシュレスの推奨もあり、クレジットカードを保有している高齢者も増えてきています。また、利用明細書がデータで送付されるケースも多いため、利用状況だけでなく契約有無についても忘れてしまっていることがあります。通帳から年に1回、1,000円程度の引き落としがある場合、クレジットカードの年会費であることがありますので、摘要などで確認してみましょう。

 なお、スーパーやデパートでは、買い物の際に優遇が受けられる独自のカードを発行していることが多く、特典に惹かれて気軽に加入しがちです。単なる優待カードであれば問題ないのですが、なかにはクレジット機能が付加されているカードもあります。このようなカードには、初年度は年会費が無料で、2年目以降は有料(あるいは一定額以上のカード決済がないと有料)という場合があります。特に高齢者の場合は現金決済を好む傾向がありますので、「カードを提示して割引を受ける→堅実に現金決済→カード利用がなく年会費が発生」という流れが発生しやすくなります。

 このように、せっかく節約しようと思ってカードを作っても、年会費の支払い損になることがあります。また、万が一紛失すれば不正利用される可能性もありますし、キャッシング機能を悪用されて詐欺被害にあうリスクもあります。高齢の両親などに対しては、「クレジットカードは年会費無料のものにする」「メリットが多いメインのカードに絞り込む」などの助言をし、判断能力が低下していると考えられる場合には、解約したほうが無難であると言えます。

 さらに、所有者が死亡した場合は、クレジットカードの退会手続きが必要となりますので、資産の確認とあわせて保有しているカードの情報も把握しておきましょう。

運用や保険のほかに、確認すべきことはありますか?
負債の有無を知らないと、子どもにも責任が生じます。

 親に借り入れや借金がある、という話もよくあります。住宅ローンやアパートローンなど、親子で認識しているものであれば分かりやすいですが、生活費や娯楽に関する借り入れは意外と気付かないものです。

 借金を残したまま親が死亡した場合、借金は相続人が引き継ぐことになります。プラスの資産よりもマイナスの資産(=借金)が多い場合には、相続人は借金を返済する必要があります。借金を相続したくない場合には、「相続放棄」や「限定承認」といった手続きがありますが、いずれも相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内に手続きをする必要があるということを頭に入れておきましょう。

 借金は、プラスの資産に比べて話題に出すことが難しい可能性がありますが、死亡後3カ月を過ぎてから思ってもみなかった借金が発覚すると大変なことになります。もしも、親が借金を抱えている様子があるならば、しっかりと確認する場を設けることが賢明です。

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【監修】井戸 美枝(いど みえ)

CFP、社会保険労務士。国民年金基金連合会理事(非常勤)。
経済エッセイストとして活動。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに、数々の雑誌や新聞の連載記事の執筆をはじめ、講演、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題、年金・社会保障問題を紹介。
近著に『身近な人が元気なうちに話しておきたいお金のこと介護のこと』(東洋経済新報社)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください』(日経BP社)、『残念な介護 楽になる介護』(日経プレミアシリーズ)など。

井戸 美枝

(2021年12月24日)

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以 上

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