お金について、すぐ確認すること―資産の把握―

元気なうちに「確認すべきこと」や「しておきたいこと」をご紹介します。

 家族でお金のことを話すのには抵抗がある、というお話をよく聞きます。しかし、認知症が進んだり突然大きな病気をしたりすると、「どの銀行にお金があるのか」「どんな保険に入っているのか」などが分からず、途方に暮れてしまうケースが多くあります。

 元気なうちに「確認すべきこと」や「しておきたいこと」を把握しておけば、介護が必要になった時にも慌てず準備することができます。

目次

親の通帳が沢山ある場合、どうしたらいいですか?
元気なうちに、口座を整理することをおススメします。

 子ども時代に作った通帳、社会人になってから給料振り込みのために作った通帳、家賃を支払うために作った通帳、ローン返済のために作った通帳…など、多くの銀行に口座を開いている人は少なくありません。また、同じ銀行に複数の普通預金口座や定期預金口座などを保有しているかもしれません。

 なかには、本人自身も口座を作ったことを覚えていないケースもあり、実際にどれくらいの資産があるのかを正確に把握できていないこともあります。このような場合、いざ介護が必要になったり病気になったときなど、使えるお金がいくらあるか分かりません。また、先々、相続という状況になっても存在を知らないまま放置してしまうことにもなりかねません。

 家族でお金のことを話すのには抵抗があると思いますが、老後の生活には「資産の洗い出し」が不可欠です。まずは、親世代(夫婦間)で資産の情報共有を行い、その後は子世代にも資産状況を教えてもらえるように親子間の信頼関係を築いていきましょう。お金の話を親子間で行えるようになったら、通帳を一緒に探してみるのも良いと思います(思いがけない場所に隠れている場合があります)。

通帳が置いてある場所
  • 鍵のかかっている引出し
  • 整理ダンス、茶タンス、飾棚、洋タンス
  • 調度品、高級家具、戸棚
  • 鏡台の引出し、仏壇、神棚
  • こたつテーブルの間、押入れ、額縁
    など

 保有している口座が分かったら、親が元気なうちに口座を整理することをおススメします。仮に口座名義人が死亡した場合、家族は銀行などの金融機関に名義人が死亡したこと(相続が発生すること)を伝える必要があります。これによって口座は家族であっても自由に入出金ができなくなります(口座の凍結)。また、相続のためには各金融機関に残高証明の開示や照会請求を行う必要があり、金融機関が定める所定の手数料が必要です。

 取引している金融機関が数カ所であれば仕方ないですが、口座が5つも6つもあると、時間もお金もかかり大変になってきます。少し離れた金融機関へ出かけると交通費もばかになりません。そこで、親が元気なうちに口座を整理して、1~2カ所程度の必要最低限に絞っておくのです。一般的な話ですが、光熱費などの口座振替を年金が入金される口座にまとめていくと整理しやすいと言われています。また、こうすることで一時的に口座管理が難しい状況になっても公共料金の未納を防げるというメリットがあります。

 私も母親が元気なうちに一緒に銀行を回り、口座を整理する経験をしました。その際に感じたメリットが沢山ありますので、参考にしてみてください。

早めに口座を整理(=不要な口座を解約)するメリット

  • 金融機関を一つに絞ることで、年金の受け取り・光熱費の支払いなどが非常に楽になった。
  • 本人が銀行に出向いて自筆で書類に記入する必要があり、年を重ねるごとに大変になる。
  • 金融機関で求められる顔写真入り身分証明書を作るのも、年を取ると辛くなる。
  • 口座を解約することで現金を全額おろすことができる(キャッシュカードで引出すだけでは、少額が残ってしまう可能性がある)。
  • 口座の解約にともなって、昔から継続されている定期預金や、同じ金融機関の別支店の口座に気付くことがある。

 タンスや戸棚から、しばらく使っていない通帳やキャッシュカードがでてくることもあります。残高の有無が分からない…キャッシュカードしかない…届出印が見当たらない…といった場合、まずは取引店に電話して確認してみましょう。

 また、もしも見逃している預金があると、相続税について申告漏れを指摘されたり、修正申告が必要になる可能性もあります。そんなことにならないためにも、早めの口座整理が必要です。

口座名義人が亡くなったら、お金はおろせないの?
遺産分割前の相続預金払戻し制度をご説明します。

 以前は、相続人が「遺産分割協議」を行わなければ死亡した方の口座から預金を引き出せませんでした。これは、「遺産分割協議」を行い、必要書類を金融機関に提出するまでは口座が凍結されるということでした。現在は、民法改正による「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」で相続預金の一定額について払い戻しを受けることができます。

遺産分割前の相続預金の払戻し制度

  • どんなとき?
     口座名義人が亡くなられ、口座名義人の預金(相続預金)が遺産分割の対象となる場合には、遺産分割が終了するまでの間、相続人単独では相続預金の払い戻しを受けられないことがあります。
  • どんな制度?
     このため、遺産分割が終了する前であっても、各相続人が当面の生活費や葬儀費用の支払いなどのためにお金が必要になった場合に、相続預金の払い戻しが受けられるよう、2018年7月の民法等の改正(2019年7月1日施行)により、相続預金の払戻し制度が設けられました。
  • 何ができるの?
     この制度では、相続預金のうちの一定額については、お取引金融機関窓口で払い戻しを受けられます。
    • 家庭裁判所の判断により払い戻しができる制度(家裁)
      • 家庭裁判所に遺産の分割の審判や調停が申し立てられている場合に、各相続人は、家庭裁判所へ申し立ててその審判を得ることにより、相続預金の全部または一部を仮に取得し、金融機関から単独で払い戻しを受けることができます。
      • ただし、生活費の支弁等の事情により相続預金の仮払いの必要性が認められ、かつ、他の共同相続人の利益を害しない場合に限られます。
      • 単独で払い戻しができる額:家庭裁判所が仮取得を認めた金額
    • 家庭裁判所の判断を経ずに払い戻しができる制度(金融機関)
      • 各相続人は、相続預金のうち、口座ごと(定期預金の場合は明細ごと)に以下の計算式で求められる額については、家庭裁判所の判断を経ずに、金融機関から単独で払い戻しを受けることができます。
      • ただし、同一の金融機関(同一の金融機関の複数の支店に相続預金がある場合はその全支店)からの払い戻しは150万円が上限になります。
      • 単独で払い戻しができる額:相続開始時の預金額(口座・明細基準)×1/3×
        払い戻しを行う相続人の法定相続分
  • (注意点)

    • 制度利用には、所定の書類が必要となります。書類提出後、相続預金の払い戻しまでには、内容の確認等のため一定の時間を要します。
    • また、遺言相続のためこれらの制度を利用できない場合などもありますので、お取引金融機関にお問い合わせください。
    • なお、これらの制度により払い戻された預金は、後日の遺産分割において、払い戻しを受けた相続人が取得するものとして調整が図られることになります。

出所:一般社団法人全国銀行協会資料をもとに作成

 遺産分割前の相続預金の払戻し制度を利用するにあたっては、本人確認書類に加え、概ね以下の書類が必要となります。ただし、お取引の金融機関により必要となる書類が異なりますので、詳しくは必ずお取引金融機関にお問い合わせください。

  • 家庭裁判所の判断により払い戻しができる制度
    • 家庭裁判所の審判書謄本(審判書上確定表示がない場合は、さらに審判確定証明書も必要)
    • 預金の払い戻しを希望される方の印鑑証明書
  • 家庭裁判所の判断を経ずに払い戻しができる制度
    • 被相続人(亡くなられた方)の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)
    • 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
    • 預金の払い戻しを希望される方の印鑑証明書

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【監修】井戸 美枝(いど みえ)

CFP、社会保険労務士。国民年金基金連合会理事(非常勤)。
経済エッセイストとして活動。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに、数々の雑誌や新聞の連載記事の執筆をはじめ、講演、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題、年金・社会保障問題を紹介。
近著に『身近な人が元気なうちに話しておきたいお金のこと介護のこと』(東洋経済新報社)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください』(日経BP社)、『残念な介護 楽になる介護』(日経プレミアシリーズ)など。

井戸 美枝

(2021年11月18日)

本コラムの内容は掲載日現在の情報です。
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以 上

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